佐賀といえば海苔。毎日とにかく、なんにでも海苔。

静かな海に並ぶ無数の支柱。漁師の誇りが宿る、有明海からの贈りもの。

朝晩の冷え込みが増し、温かい食べ物が恋しくなるこの季節。食卓に欠かせないのが、香り豊かな有明海の海苔です。秋から冬にかけて海苔づくりが本格的に始まり、静かな海に立ち並ぶ支柱や張られたカラフルな網が、季節の風物詩となっています。

漁師さんによれば、9月ごろから海に支柱を立てる作業が始まり、その数はなんと3,000本以上。その後水温が下がった10月下旬には海苔の種を網に付着させる採苗(さいびょう)が行われます。海苔はとても繊細で、網の色ひとつでも仕上がりが変わるそうです。毎日顕微鏡をのぞいて成長を確かめ、最適な環境を整える。地道で丁寧な作業の積み重ねが、佐賀の美味しい海苔を生み出しているのです。

「食感、風味、旨み、有明海の海苔に勝つ海苔はない」。そう語る漁師さんの言葉からは、自分たちの海をさらに魅力あるものにしたいという誇りと情熱が感じられます。おにぎりや佃煮から広がる豊かな香りの向こうに、日々の努力が息づいていることを思うと、いつもの一枚がより一層ありがたく感じられます。

有明海から届く黒々とした艶やかな海苔は、私たちの暮らしに欠かせない、このまちならではの日常のごちそう。漁師さんたちの挑戦は続き、全国に誇る海苔づくりが今も進められています。

竹下幸佑(ノリ漁師)

 

佐賀で日本一の名品といえば、真っ先にノリを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。豊かな有明海の恩恵を受けて育まれる香り高いノリは、まさに佐賀の誇りです。今回は、ノリ漁師の一人、竹下幸佑(たけしたこうすけ)さんにお話を伺いました。竹下さんは、父から受け継いだこの伝統的な仕事を、安定して続けるために日々努力を重ねています。

最初にお聞きしたのは、実は近年のノリ生産を取り巻く環境が厳しくなっているということ。2022年以降、佐賀のノリは生産量日本一の座を譲ってしまいました。温暖化、一時的な大雨、渇水、さらには赤潮といった自然の猛威が、ノリの生育に影響を及ぼしているのです。「自然の状況に合わせて、やっていくしかない」と、竹下さんは淡々と語ります。竹下さんは、大学の研究者との意見交換や、ノリ漁師たちが集まるサミットへの参加を通じて、新たな打開策を模索しています。

 

今回特別に竹下さんの作業に同行させてもらうことができました。ノリを育てるための網を支える支柱を海に立てる作業です。揺れる船の上で、5メートル以上もある支柱を等間隔で立てていくのは、一筋縄ではいきません。私も一本だけ立てさせてもらいましたが、足元がふらつくなか、真っ直ぐに立てることがこんなにも難しいとは思いませんでした。固い泥の中に支柱を差し込むために、全力で体を使いました。竹下さんは、シーズン中に約3,000本もの支柱を立てると教えてくれました。私たちの食卓に並ぶノリの一枚一枚に、私たちには見えないノリ漁師たちの努力が息づいていることを実感しました。

「自分が思ったような美味しいノリができると嬉しい」と、竹下さんは屈託のない笑顔を見せます。実は、ノリを育てる網の色が違うだけでも、温まり方が異なり、ノリの生育に影響を与えるのだそうです。竹下さんは、こうしたさまざまな工夫を凝らし、試行錯誤することが最高の楽しみだと語ります。理想のノリを作り出すための挑戦が、今から楽しみです。そして、これからも佐賀のノリが多くの人々に愛され続け、生産量日本一を奪還してほしいと心から願っています。

 

 

稲富功(ノリ検査員)

 

日本一の名産と称される有明海のノリ。その品質を支える重要な役割を担っているのが、ノリ検査員です。実は、製造されたノリは色、ツヤ、形など多岐にわたる基準で検査され、細かく等級分けされています。今回は、そのノリ検査員、稲富功(いなどみいさお)さんにお話を伺いました。

稲富さんは43年のキャリアを持つ、佐賀で最もベテランの検査員です。当時住んでいた地区の漁協の組合長から紹介され、ノリの検査に興味を抱き、夏場は農業、ノリの時期は検査員としてこの仕事を続けてこられました。「5年、10年、15年と続けることでわかってくるものがある」と語る稲富さん。稲富さんの検査は、目に見える部分だけでなく、ノリ質そのものを見極める、確かな経験に裏付けられています。

 

「ノリは自然のもの。日によって質が変わるので検査も大変です」と話す稲富さんですが、その表情には一種の楽しさも感じられます。天気や潮汐などによって、品質は大きく変動するのです。ノリのシーズンである11月から4月ごろまでの間に、佐賀県全体では15億枚程が生産され、見習いを含む23人の検査員が100枚に束ねられた乾海苔を一束一束検査します。正確性だけでなく、作業のスピードも求められるため責任は重大です。

ここ3年間、佐賀はノリ生産量日本一の座を譲ってしまっていますが、有明海のノリに関われることに強い誇りを感じている稲富さん。「質の良い、美味しいノリが以前のようにいっぱい取れてほしい」と心の底から願っています。海水温が下がらず、過去最も遅いノリの種付けになった今シーズン。ノリの検査はこれからです。たくさんの良質な海苔が生産され、私たちの食卓に届くのが今から待ち遠しいですね。