子育て応援コラム「アタッチメント」No.12 令和6年2月号
「子どもは権利の主体である。」、「子どもの最善の利益を優先する」という言葉を見聞きしたことがあるでしょうか。今回は、皆様にもぜひ知っていただきたい、「こども基本法」にまつわる話をしたいと思います。固くなりそうな内容をいかにわかりやすく、興味を持っていただけるよう伝えられるか、法律の専門家ではない私のチャレンジでもあります。法律は、一見、日常生活とかけ離れているようで、実は、大人として子どもへ接する際の拠り所になるものだと思っています。
1989年に国連で採択された「子どもの権利条約」を、日本は1994年に批准しました。日本は30年前に、この条約に署名後、条約の規定を法的にしっかりと守る意思を約束したことになります。現在は、アメリカとソマリアの二つの国を除く世界中の国が、「子どもの権利条約」を結んでいますから、言葉や文化は違っても、地球上の子どもたちすべてに共通する権利があり、どの国の大人も、義務の担い手になるということです。
日本は、2023年に、生きる権利、育つ権利、守られる権利、参加する権利という子どもの権利条約の理念を盛り込んだ「こども基本法」をようやく成立させました。同時に、こどもまんなか社会と銘打って、首相直属の組織「こども家庭庁」が発足しました。その施策のなかで、小学校に上がるまでの大切にしたい考え方をまとめた「はじめの100か月の育ちビジョン」が提示され、一番目に、子どもの権利や尊厳を守ることが書かれています。法律の改正を付け加えておきますが、2020年には児童福祉法の改正で、しつけと称した体罰の禁止、2022年の民法改正では、親権者の懲戒権(不正不当な行為に制裁を与える権利)はなくなりました。このように、子どもの命や安全を守るための法律の改正は続いています。
では、私たち大人が、子育てで求められる義務とは何なのでしょうか。
厚労省が2020年に発行した「体罰によらない子育てのために~こどもの権利が守られる体罰のない社会へ~」の中で、しつけとは、「子どもの人格や才能などを伸ばし、自律した社会生活を送れるように子どもをサポートして社会性を育むこと」であり、体罰とは、「痛みや苦しみを利用してこどもの言動を統制すること」とされています。しつけではなく体罰の例として、「言葉で注意しても聞かないので頬を叩く」、「いたずらをしたので、長時間正座させる」、「宿題をしなかったので、夕飯を抜きにした」、「友達を殴ったので同じように子どもを殴った」、「掃除をしないので、雑巾を顔に押し付けた」等が挙げられています。
どんな気持ちで読まれましたか?大人の側には、子ども時代にしつけと称した体罰を当たり前のように受けてきた方も少なくないと想像しています。自らの育ちにおいて保障されなかった権利を、今を生きる子どもたちの権利として認めましょうという流れです。体罰によらない子育てをしていこうという掛け声に、心底「OK」と言えない気持ちの揺らぎがありませんか?そのモヤモヤにどう付き合っていけばいいのでしょうか。
「子どもが良くない行為をしたときにきつく叱ってはダメなのか?」、「責任もって我が子を育てなければという思いが強いからか、感情が先立って理性的ではいられない」、「自分も厳しくしつけられたからこそ今がある。体罰が否定されると自分まで否定されている気がする」などのお声をいただきました。
次回のコラムでは、戸惑う大人の気持ちを読み解いて、子どもの権利を尊重した子育てへと一歩近づけるヒントをお伝えできれば幸いです。
佐賀市こども・子育て支援専門アドバイザー 田口香津子