子育て応援コラム「アタッチメント」No.6 令和5年8月号
先日、新聞に絵本を紹介する機会がありました。子どもたちが幼い頃、繰り返し読んでほしいとねだっていた絵本から、「はらぺこあおむし」「しろくまちゃんのほっとけーき」、「からすのパンやさん」を選びました。きっとみなさんにも、大切な思い出につながる絵本、あるいは、今、毎日のように読み聞かせている絵本があることでしょう。
小学生以降は、何冊多く本を読めたかが評価されてきましたが、絵本は不思議です。一冊を繰り返し読んでも飽きませんね。子どもと一緒だからでしょうか。ページをめくれば同じ展開と知りつつも、子どもの喜ぶリアクションを知っているので、大人も毎回ワクワクできますね。加えて新たな発見もあります。同じことを何度も楽しめるって素敵。
私の友人が語ってくれた、とっておきのエピソードがあります。「大学時代、親友と頻繁に本屋に行っていた。その都度、自分は小説を探していたが、親友は絵本のコーナーにたむろしていた。ある時、親友に、幼稚だな、小説を読めよと茶化すと、親友は本気で怒った。絵本を馬鹿にしちゃいけない、一冊の小説にも勝るような優れた感性の世界がある、と。」 その親友とは、その後小説家になり、直木賞を受賞された天童荒太さんです。青年期に感受していた絵本の世界が、紡ぎ出す言葉の豊かさの源になっていたのでしょうか。
ところで、国がバックアップしている「絵本の専門家」の資格をご存知ですか?それは、平成26年度より養成講座がスタートした、独立行政法人国立青少年教育振興機構認定の「絵本専門士」です。ここのHPには、「子どもたちにとっての絵本は、言語力、感性、文脈理解力、物事の理解力を驚くほど発達させ、豊かな人格形成をもたらすものとして、また、大人になっても新たな世界を発見、体感できるものとして極めて重要です。」と書かれています。
「絵本専門士」は、図書館、保育現場等で実務経験を3年以上積んだ応募者数百名が2回の選考を経て、受講者70名に絞られ、東京の会場で年に10日間講座受講後、修了課題をクリアして取得という、絵本のプロフェッショナルへの狭き門です。この「絵本専門士」に将来なりたい、主に学生向けの資格が「認定絵本士」といい、基準を満たした全国約50ヵ所の大学・短大等で養成講座が開設されています。学校によっては一般の受講者も資格を取得することが可能ですが、やはり時間や費用のゆとりが必要です。
正直、子育てしながら取得するのは大変難しい資格ですから、今すぐお勧めする訳ではありません。もし、子育て中に多くの絵本と出会い、その素晴らしさを再認識された方々が、今すぐには手が届かなくても、長い道のりにはなりますが、いつか絵本の専門家の世界へ足を踏み入れてくださる未来があればいいなと思い、ご紹介します。
目の前の、子どもたちと一緒に絵本を楽しむ時間は消えてなくなりはしません。お互いの心に幸せな記憶となって蓄積し続けます。忙しい毎日をやりくりしながらも、絵本を手にしてほっとするひとときを編み出しているみなさん、子育て期の数年間の醍醐味をじっくり味わってくださいね。
こども・子育て支援専門アドバイザー 田口香津子