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裁判が教えるもの(2015年6月15日)

更新:2017年03月 9日

 平成22年11月12日の朝、佐賀市内のある小学校の始業前の出来事である。

 上級生である6年生男児が、担任の先生がまだ教室に来ていない隣の5年生の教室に入り、上履きの靴のまま、机の上に乗るなどして「悪ふざけ」をした。

 自分の机に乗られた下級生の女児は、勇気を持って注意した。

 ところが、女児から注意されてかっとなった男児は、女児の顔を足で蹴ってけがをさせ、不安感をも与えた。

 

 心が痛む出来事である。

 当時、事件の報告を受けた私は、「顔を蹴るなんて、ひどいことを・・・」と次の言葉が出なかった。

 

 後日、被害を受けた女児側から、加害男児の保護者に対する監督責任と佐賀市に対する学校運営の安全配慮義務責任を問われ、治療費や後遺障害、慰謝料などを求めて訴えが起こされた。

 1審の途中で原告と被告である加害男児側は和解され、訴えを取り下げられたので、それ以降は佐賀市のみが被告となった。

 

 1審の佐賀地裁では原告の主張は認められなかったが、先月、2審の福岡高裁では原告の主張が一部認められ、佐賀市の責任を認める判決が下された。

 判決では、「児童間事故における担任教諭の具体的な安全配慮義務が生ずるのは、学校における教育活動及びこれと密接に関連する学校生活関係において、具体的状況のもと、何等かの事故又は加害行為が発生する危険性を具体的に予見することが可能であることが必要である」と定義づけて、本件では事件前の加害児童の行動から「他の児童に対し、何らかの加害行為が行われる危険性を具体的に予見することが可能であったと認めるのが相当である」として本加害行為は予見可能であったと判断した。

 

 このように「予見」が可能であったかどうかで1審と2審の判断が分かれたので、上告して白黒決着ということも考えられたが、裁判が長引くことで、関係者にこれ以上の心労を引きずらせるのは好ましくないと佐賀市は判断し、2審判決を受け容れることにした。

 

 しかし、これで問題が全て解決したわけではない。裁判の経緯から関係者にはまだすっきりしないものが残るに違いない。

 

 誰よりも申し訳なく思うのは、被害を受けた女児に対してである。

 何も悪いことをしていないのに屈辱的な仕打ちを受けた無念さに加え、今なお体調不振を訴えられているとお聞きしているので、心が痛む。

 一日も早い健康回復を願って止まない。

 

 次に学校現場への思いである。

 近年、発達障がいなど「気になる子ども」が増えている。

 ただでさえ忙しさを増している教育現場への、この安全配慮義務の負担。現場は大変であるに違いない。

 佐賀市では、これまでも独自の配慮をしてきたが、それで足りているのかどうか自信がない。

 この事件の加害男児が発達障がいと診断されたのは事件後であり、もし、事件発生前に診断が出され、周りの理解が深まっていたら注意度も違っただろうにと、悔やまれてならない。

 

 私たちは同じような事件を引き起こしてはならないが、ここで十分総括しないと同じような事件が再発する可能性は以前よりも増していると思われる。

 このことは佐賀市だけの問題ではないはずだ。当然、佐賀市以外でも起こりうる。

 「気になる子ども」の数は年々増えている状況なので、この判決を契機に、国、県も一緒になって、発達障がいの要因究明を含めた課題解決に向け、取り組まなければならない。

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