子育て応援コラム「アタッチメント」 No.21 令和6年11月号
「アタッチメント」と名付けたコラムも21号となりました。先日、19号までのコラムの閲覧数を知らせていただきましたが、総計1万7千回を超えていて驚きました。どなたが見てくださっているのか、読んでどう感じられているのか、心許ない気持ちもありながら続けてきましたが、
これからも子育てを応援する気持ちを届けていこうと力をもらえました。コラムの存在に気づいてくださった方、ありがとうございます。
さて、子育てに関する講演会や研修会では、「アタッチメント」を、『不安なとき、困ったときに助けてくれる対象がいること』と言い換えています。正確に言えば、『楽しいとき、嬉しいときに一緒にいたい対象ではなく、心が危機を感じたときに、助けを求め、安心できる対象』がいるかどうかが、「アタッチメント」の肝になるかと思います。この違いを説明するのに面白い実験がありますので、紹介します。
生後一歳の子どもを持つ共働き・共育児のカップル100組に協力してもらった実験です。子どもから数メートル離れたところに夫婦が横並びに間隔をあけて立ちます。そして、おいでおいでをしてもらい、どちらに子どもがゴールするのかというシンプルな実験です。みなさんはどう予想されますか?多くの人が、母親に行く子どもが多いだろうと予想します。共育児なら、母親父親半々かなという人もいます。
結果は、父親に行った子どもが90人、母親は10人でした。私も、予想外の結果だと思いました。実は、共育児と言っても、実験当時(2000年以前)の父親の育児参加は、母が家事をしている間、子どもと一緒に遊ぶ、入浴する等変化を与える役割が中心で、子どもからすれば、父親の側に行く方が楽しいという学習をしているのだろうと推察されていました。母親からすれば、育児のベースである健康や安全、生命保持に関する部分を父親より多く担っていながら、父親を選ぶ子どもにがっくりしたことでしょう。ところが、ここからが面白いのです。その実験室の電気を消し、カーテンを閉めて、暗くしてから、さっきと同じように、おいでおいでをすると、100人の子が、全員母親のもとに寄って行ったのです。不安な環境下に身を置いた子どもがくっついて安心を求めた相手は、お母さんでした。これが、愛着の対象です。
2024年の今、共育児の夫婦で、同じ実験をしたら、どうなるでしょうか?不安な時に頼るのが父親という子どもさんがいても不思議ではないでしょう。それだけ、現在は、性別役割分業に縛られず、自分達の生活や育児スタイルが多様化しています。多様化自体は自然なことですが、子育て保育を担う方々には、全ての子どもに、困ったときに大人(保護者や保育者)を頼っていいよというメッセージを伝えてほしいと願います。本来、どの子も全て健やかに育つ権利があり、私たち大人はその環境を保障する義務を持っているのですから。
いいえ、大人も同様です。困ったときに助けを求めるのは生きる力。愛着が、大人になっても生涯幸せに生きていくために必要なことだと気づく記事を見つけましたのでご紹介します。ハーバード大学が、84年にわたり2000人以上の追跡研究をした結果、人間の幸福と健康を高める要因は、学歴でも年収でも職業でもなく、良好な人間関係にあるという結論を導きました。その調査の質問項目の一つ、「真夜中に具合が悪くなったとき誰に電話をしますか。」という問いに、みなさんは何人の顔が思い浮かぶでしょうか?100人いなくても、1人でもいいそうです。幸福を感じるのは、困ったときに助けてくれる存在があるということ。そう、愛着が基盤なのですね。
こども・子育て支援専門アドバイザー 田口香津子